ァミーユ》!」
 と囃《はや》した。その返礼にリゼットは後《うしろ》を向いて酒で焦《こ》げた茶色の舌をちょっと見せた。
 アメリカ人を巣に引き入れて衣裳戸棚《クロゼット》の葡萄酒《ワイン》の最後の一本を重く取り出した時リゼットは急に悲しくなった。
 レイモンは何してるだろう――彼女は自分に苦労させてはぶらぶら金ばかり使って歩く男がいとしくまた憎らしくもなった。疲れが一時に体から這《は》い出した。
 マギイ婆さんは鋸楽師のおいぼれ[#「おいぼれ」に傍点]を連れて自分の部屋へ引きとった。彼女は妙にいらいらしていた。なんとかかんとか鋸楽師を苛《いじ》めて寝かさなかった。おいぼれ[#「おいぼれ」に傍点]は一晩《ひとばん》中こごんで肝臓を庇《かば》っていた。



底本:「愛よ、愛」メタローグ
   1999(平成11)年5月8日第1刷発行
底本の親本:「岡本かの子全集」冬樹社
   1976(昭和51)年発行
入力:門田裕志
校正:土屋隆
2004年3月30日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作ら
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