の観賞を誤って居るようなもどかしさを葉子は感じたからである。しかし、現在見るところのX夫人は葉子の眼にも全く美しかった。デリケートな顔立ちのつくりに似合う浅い頭髪のウェーブ、しなやかな肩に質のこまかな縮緬《ちりめん》の着物と羽織を調和させ、細く長めに曳《ひ》いた眉をやや昂《あ》げて嬌然として居るX夫人――だが、葉子はX夫人のつい先日迄を知って居た。黄色い皮膚、薄い下り眉毛《まゆげ》、今はもとの眉毛を剃《そ》ったあとに墨で美しく曳いた眉毛の下のすこし腫《はれ》ぽったい瞼《まぶた》のなかにうるみを見せて似合って居ても、もとの眉毛に対応して居た時はただありきたりの垂れ眼であった。今こそウェーブの額髪で隠れているが、ほんとうはこの間までまるだしの抜け上ったおかみさん[#「おかみさん」に傍点]額がその下にかくれている筈《はず》だ――葉子はその、先日までのX夫人を長年見て来たので、今日同じ夫人が、がらりと変った化粧法で作り上げた美容を見せられても、重ね絵のようについ先日までのX夫人の本当の容貌《ようぼう》が出て来て、現在のX夫人に見る美感の邪魔をする。それにもかかわらず麻川氏が変貌《へんぼう》以後
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