君があすこんとこ(私達の部屋と氏の部屋との境いの露地。)へ籐椅子《とういす》を持って来て腰かけてたよ。」と何気なく話したので従妹は急に勢い込んで帰りの馬車の情況を主人に話し「あの人、自分が大変なこと云っちゃったので私達が部屋でどんなに怒って話し合ってるか聞き耳たててたんでしょう。あの人よく立ち聞きする人ですもの。ヤキモチと云えばあの人こそ……いつかお姉様が、久野さんや喜久井さんのこと麻川さんの前で褒めたら、それはそれは不愉快な顔して喜久井さんや久野さんの悪口随分云ったじゃ無いの、あの人こそヤキモチヤキだわ。」私もそれに思い当った。が従妹があまりはきはき云って仕舞ったので、気持がいくらか晴れたせいか、不思議と心の底の方から麻川氏への理解がほのかに湧《わ》いて来た。「そのくせ、充分友達思いなんだけどね。」すると主人が例のゆっくりした調子で云った。「そうだよ。ああいう性分なんだよ。ふだん冷静に見せてるけど時々|末梢神経《まっしょうしんけい》でひねくれるのさ。君にだって悪意があるわけじゃ無いんだけど……。」従妹「そうよ。あの人お姉様ととてもお話も合うし仲よしなんだけど、赫子なんかに取り込められ
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