を考えていらっしったんですか。」麻川氏「要するに、こんないいかげんな世の中に、儚《はか》ない生死の約束なんかに支配されて、人間なんか下らないみじめな生物なんだ。物質の分配がどうだの、理想がどうだの、何イズムだのと陰に陽にお祭り騒ぎして居るけれど、人間なんて、本当の処は桶《おけ》の底のウジのようにうごめき暮らして居る惨《みじめ》な生物に過ぎないんですな。」私「そうですね。でも、そういう風に思い詰めるどんづまりに、また反撥心《はんぱつしん》も起って、お祭騒ぎや、主義や理想も立て度《た》くなるんじゃないのですか。どっちも人間の本当のところじゃありませんか。」氏「生死の問題に就《つ》いてあなたは何う思いますか。」私「死は生の或る時期からの変態で、生は死の或る時期以前の変態というようにも考えるし、また、まるまる別個のようにも考えますわ。」氏「というと、生死一如でもあり、また全々生死は聯絡《れんらく》のないものとも考えるんですな。」私「ええ。」氏「願くばどっちかに片づけ度いもんですね。」私「仕方が無いからさしあたりどちらか私達をより以上に強く支配する観念の方へ就くんですね。」氏「僕は生死一如とは考
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