の言葉や態度も気になって寝られ無い。仕方なしに起きて机の上に両手を組み頭をのせ叔母さんの云った麻川さんのうしろ暗い事について考え込んだ。うしろ暗い事なんか誰でも持って居るのだ、それをあんなにも人に見せまい感づかれまいとする麻川氏の焦燥は、見て居てもこっちが辛《つら》い。お客はお互いの部屋のお互いっこなのだ。も一つの部屋のブルジョア息子達の部屋のお客こそ大したものだ。朝から晩まで誰かしら外部のものが詰めかけ、ハモニカ、合唱、角力《すもう》、哄笑《こうしょう》。それらは麻川氏の神経に触らなくて「種|蒔《ま》く氏」の外は殆《ほとん》ど皆おとなしく話し込んだり遊んだりして帰って行く私の客達に麻川氏は一種の恐怖観念のようなものを抱くのらしい。麻川氏の方にしても若い無邪気な×氏や温厚な洗錬された作家×××氏や画家K氏を除く外はあんまり愉快な客ばかりでは無い。或る一人の男などはたまたま廊下で私に逢《あ》い私を呼び留めて「僕あ身分をかくして居るんですが。」などと思わせぶりな前提で麻川氏を誇張的に讃美《さんび》し自分も麻川氏の客であるからには、天下の存在であるかのような口吻《こうふん》を洩《も》らして私
前へ 次へ
全59ページ中26ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング