にし出した。で、もし麻川氏が陰惨にとれて居たら雑誌なんかに出すのはやめて欲しいと私もP社にたのんだ。P社の記者がそれを納得して東京へ帰ってから従妹《いとこ》に昼の西瓜の半分を切らして私の部屋の縁で麻川氏をもてなす。「いやあ、よく御馳走《ごちそう》になりますな、お陰で露命をつないでるようなもんですな。」わははと従妹がむき出しに笑い出した。氏「おかしいですか。」私「あなたのイットが面白いといつも云ってますの、このひとは。」けれど私はさっきまであんなに写真の事なんかで神経質だった氏が、打って替っておどけなんかを云うので従妹とは違った変なおかしさをおなかのなかで感じて居た。そこへ遠くの薄暮のなかから口笛が聞えて来た。T氏の弟がH屋の門を入って来たのだ。すると麻川氏は「や、種蒔くが来た」と突然顔面を硬直させて立ち上った。
某日。――夜ふけて母家へ時計を見に行くと、麻川氏が一人、応接間の籐椅子《とういす》に倚《よ》って新聞を読んで居た。私は、先刻東京から来たばかりの叔母さんと一緒なので、麻川氏に一礼して直《す》ぐ部屋へ引返そうとすると麻川氏は無理に引とめて一つの椅子に私を坐らせた。叔母さんは小柄
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