の先に立って、私や麻川氏を見上げて居る。私はもう、だまってメロンを喰《た》べて居た。
某日。――裏木戸の外へ西瓜《すいか》の皮を捨てに行くと、木戸の内側の砂利道に、無帽の麻川氏がうずくまり、向うむきで地べたをじっと見つめて居る。「何してらっしゃるのですか。」と足音をひそめて私が近寄ると、氏は極々《ごくごく》あたりまえの顔をして「炎天の地下層にですな、小人がうじゃうじゃ湧《わ》こうとしてるんじゃ無いですかな。」「え?」私はたらたら汗を流して居る氏を、不思議に見詰めた。「あはは……誰でもこんな錯覚が時々ありそうですな。」「…………。」立ち上った氏の足下には大粒の黒蟻が沢山殺されて居た。汗で長髪を額にねばり付かせ、けらけら笑って立って居る氏に私は白昼の鬼気を感じた。私は気味悪くなった。「西瓜がまだ半分ありますから、あとで召上りにいらっしゃい。」私はそう云って見たが、氏は返事もせずに井戸端をめぐって、廊下へ昇って行って仕舞った。夕方私の処へ来たP社の記者が私の部屋の一族と、麻川氏を交ぜて写真を撮った。撮られて仕舞てから氏は、近頃の自分がいかに写真面に陰惨に撮れる例が多いかということを非常に気
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