なので、ずっと離れて窓際のちっちゃな椅子へ掛けて窓の外を見て居る。麻川氏「種蒔くはこの頃来ませんな。」私「ええ、東北の方へ行っちまったんだそうです。」麻川氏「ははあ、だが、今日も昨日も随分あなたん所でお客が多かったんですな。」私「東京から距離が近いのに土地が珍らしいから用事がなくっても遊びに来るんでしょう、東京生活よりお客が多いくらいです。」麻川氏「お客の種類は大別してどんな人達ですか。」私「………………。」麻川氏「いやあ、僕にひと様のお客を調べる権利はありませんが……。」私「重《おも》だった客は先達《せんだっ》てのX図案家や、詩人のX氏や、哲学科のX氏あたりでしょう。」麻川氏「図案家X氏も行きづまりの恰好ですな。」私「そう、今までのメカニズムが近頃擡頭して来た新古典主義に押され勝ちのようですね。そういう欧洲の情勢が日本にも影響して来ましたのね。」麻川氏「詩人X氏は相変らず若くてカラリストだ。だが、時々馬鹿に饒舌《じょうぜつ》すぎますな……そして哲学科は……。」私「あれは私の論敵!」叔母さんが窓の方から、くるりとこっちを向いた。「煙草《たばこ》いかがです。」と麻川氏は叔母さんにケースを
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