似るに過ぎないんですね。」氏は斯《こ》う云い終ると少し疲れたようにひるすぎの太陽のきらきらあたる庭芝を眺めた。向うの垣根の外に下駄の音がして長谷《はせ》あたりへ来て居る麻川氏の知人達の声が聞えた。私は氏の部屋を辞して自分の部屋で暫くやすむ――幽《しず》けさや、昼寝|枕《まくら》にまつわる蚊――こんな「句」のようなものを詠んで麻川氏の寂し相な眼つきを想《おも》った。
某日。――麻川氏と私とは、体格、容貌《ようぼう》、性質の或部分等は、全く反対だが、神経の密度や趣味、好尚等随分よく似た部分もある。氏も、それを感じて居るのか、いわゆるなかよし[#「なかよし」に傍点]になり、しんみり語り合う機会が日増に多くなった。そして氏の良き一面はますます私に感じられて来るにも拘《かかわ》らず、何とも云えない不可解な氏が、追々私に現前して来る。それは良き一面の氏とは似てもつかない、そして或場合には両面全く聯絡《れんらく》を持たないもののようにさえ感じられる。幼稚とも意地悪とも、病的、盲者的、時としてはまた許しがたい無礼の徒とも云い切れない一面に逢う。
某日。――今日、麻川氏は終日|椎《しい》の間の小亭で
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