たん」に傍点]の音、東京から来た二三人の麻川氏訪問者も交ってわっわ[#「わっわ」に傍点]の騒ぎだ。それをこっちの部屋でじっと聞いて居た私には、やがて、麻川氏のはしゃぎ[#「はしゃぎ」に傍点]ばかりが別ものとなって耳の底にひびいて来た。陰性を帯びたはしゃぎ方だ。上へ上へとはしゃぎ出そうとする氏の都会的な陽性を、どうしても底へ引き込む陰性なものがある。私の眼には一本の太い針金の幻覚が現われた……どたり、地面に投げ出され乍ら、金属の表面ばかりが太陽にきらきら光っている……。
某日。――麻川氏と始めて少し文学論のような話をした。私が「どうも日本の自然主義がモーパッサンやフローベルから派生したものとすれば、私には異議があります。日本の自然主義は外国の自然主義作家の一部分しか真似《まね》てない気がします。モーパッサンにしろフローベルにしろ何も肉体的な自然主義ばかりを主張してませんね。私はむしろ精神的な詩的香気の方を外国の自然主義作家から感じるのですが。」麻川氏「そうですとも、何しろ日本の作家達は西洋を真似るのに非常に性急です。それから、体力や精神力に全幅的な大きさが無い。従って一部分を概念的に真
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