る。麻川氏は自分の屹々《きつきつ》した神経の尖端《せんたん》を傷めないK氏の外廓形態の感触に安心してK氏のなか味のデリカな神経に触接し得る適宜さでK氏をますます愛好して居るのではあるまいか。
某日。――大川赫子が兄さんの大川氏と暫《しばら》く別れ、近所に宿を極《き》めてしばらく鎌倉に落ちつくのだそうだ、で、今日からK氏のモデルになり始めた。昼前から、麻川氏の部屋では大騒ぎだ。ああいう娘の存在は単調な避暑地の空気を溌剌《はつらつ》とさせて呉《く》れる。「荘ちゃん。」と娘に呼ばれて麻川氏も大はしゃぎだ。婆やのお駒が私の部屋へ来て、芝生越の樹立ちの中の小亭を指して云う「大川さんが来る前は書き物をするからあすこへ閉じこもると仰《おっしゃ》るので、ほかのお客を断わってお貸ししてありますのに、赫子さんが来ると何も放り出してあの通り……。」と私達に遠慮し乍らなお麻川氏のことを「口が旨《うま》い」とか、「男にしては如才なさすぎる。」とかこの婆さんかなりあら[#「あら」に傍点]探しで感じが好く無いが、麻川氏にも多少云われる根拠がある。
赫子が麻川氏と相撲でもとり始めたらしいどたんばたん[#「どたんば
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