子供の手の届く範囲を示して子供の背丈けだけに摘み揃つてゐる蔦の芽の摘み取られ方には、悪戯《いたずら》は悪戯でもやつぱり子供らしい自然さが現れてゐて、思ひ返さずにはゐられなかつた。
「これより上へ短くは摘み取るまいよ。そしてそのうちには子供だから摘むのにもぢき飽きるだらうよ」
「でも」
「まあ、いゝから……」
ひろ子の家は二筋三筋|距《へだた》つた町通りに小さい葉茶屋の店を出してゐた。上《あが》り框《がまち》と店の左横にさゝやかな陳列|硝子《ガラス》戸棚を並べ、その中に進物用の大小の円鑵《まるかん》や、包装した箱が申訳《もうしわけ》だけに並べてあつた。
楽焼《らくやき》の煎茶《せんちゃ》道具|一揃《ひとそろ》ひに、茶の湯用の漆《うるし》塗りの棗《なつめ》や、竹の茶筅《ちゃせん》が埃《ほこり》を冠《かむ》つてゐた。右側と衝き当りに三段の棚があつて、上の方には紫の紐附《ひもつき》の玉露《ぎょくろ》の小|壺《つぼ》が並べてあるが、それと中段の煎茶の上等が入れてある中壺は滅多《めった》に客の為め蓋《ふた》が開けられることはなく、売れるのは下段の大壺の番茶が主だつた。徳用の浜茶や粉茶も割合
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