つて。おまへなど女弁士にでもおなり」と叱り散らした。
 もう、そのとき、ひろ子はじめ連れの子供たちは逃げかかつてゐて、老婢より相当離れてゐた。老婢はまた懐柔して防ぐに之《し》くはないと気を更《か》へたらしく、強《し》ひて優しい声を投げた。
「ねえ、みんな、おまへさんたちいゝ子だから、この蔦の芽を摘むんぢやないよ。ほんとに頼むよ」
 流石《さすが》の子供たちも「あゝ」とか「うん」とか生《なま》返事しながら馳《は》せ去る足音がした。やつと私は潜戸《くぐりど》を開けて表へ出てみた。
「ばあや、どうしたの」
「まあ、奥さま、ご覧遊ばせ。憎らしいつたらございません。ひろ子が餓鬼《がき》大将で蔦の芽をこんなにしてしまつたのでございます。わたくし、親の家へ怒鳴《どな》り込んでやらうと思つてゐるんでございます」
 指したのを見ると、門の蔦は、子供の手の届く高さの横一文字の線にむしり取られて、髪のおかつぱさんの短い前髪のやうに揃《そろ》つてゐた。流行を追うて刈り過ぎた理髪のやうに軽佻《けいちょう》で滑稽《こっけい》にも見えた。私はむつとして「なんといふ、非道《ひど》いこと。いくら子供だつて」と言つたが、
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