、いふことを素直に聴く良い子らしい声音《こわね》を装つて返事しながら立派に大きく両手を突出した様子が蔦の門を越した向うに感じられた。忽《たちま》ち当惑したまき[#「まき」に傍点]の表情が私に想像される。老婢《ろうひ》は「ふうむ」とうなつた。
 また、くす/\笑ふ子供たちの声が聞える。
 私も何だか微笑が出た。ちよつと間を置いて、まき[#「まき」に傍点]は勢《いきおい》づき
「ぢや、この蔦の芽をちよぎつたのは誰だ。え、そいつてごらん。え、誰だよ、そら言へまい」
「あら、言へてよ。けど言はないわ。言へばをばさんに叱《しか》られるの判つてゐるでせう。叱られること判つてゐながら言ふなんて、いくら子供だつて不人情だわ」
「不人情、は は は は は」と女の子供たちは、ひろ子の使つた大人らしい言葉が面白かつたか、男のやうな声をたてゝ一せいに笑つた。
 まき[#「まき」に傍点]はいきり立つて「この子たち口減らずといつたら――」まき[#「まき」に傍点]の憤慨してゐる様子が私にも想像されたが、すべてのものから孤独へはふり捨てられたこの老女は、やはり不人情の一言には可なり刺激を受けたらしい。「早く向うへ行
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