と崎にせかれて、その間に干潮を急ぐ海流の形のやうでもあり、大きくうねりを見せて動いてゐる潮のやうでもある。空間にあへなき支点を求めて覚束《おぼつか》なくも微風に揺られてゐる掻《か》きつき剰《あま》つた新蔓は、潮の飛沫《しぶき》のやうだ。机から急に立上つた身体の動揺から私は軽微の眩暈《めまい》がしたのと、久し振りにあたる明るい陽の光の刺戟《しげき》に、苦しいより却《かえっ》て揺蕩《ようとう》とした恍惚《こうこつ》に陥つたらしい。そのまゝ佇《たたず》んで、しめやかな松の初花の樹脂|臭《くさ》い匂ひを吸ひ入れながら、門外のいさかひを聞くとも聞かぬともなく聞く。
「えゝ/\、ほんとに、あたしぢやないのだわ。よその子よ。そしてそのよその子、あたし知つてるよ」
早熟《ませ》た口調で言つてゐるのはこの先の町の葉茶屋の少女ひろ子である。遊び友達らしい子供の四五人の声で、くす/\笑ふのが少し遠く聞える。
「嘘だろ! 両手を出してお見せ」と言つたのは老いたまき[#「まき」に傍点]の声である。もうだいぶ返答返しされて多少自信を失つたまき[#「まき」に傍点]はしどろもどろの調子である。
「はい」少女はわざと
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