子づいたものか老婢は、大びらでひろ子の店に通ひ、ひろ子の店の事情をいろ/\私に話すのであつた。
 私の家は割合に茶を使ふ家である。酒を飲まない家族の多くは、心気の転換や刺激の料に新らしくしば/\茶を入れかへた。老婢は月に二度以上もひろ子の店を訪ねることが出来た。
 まき[#「まき」に傍点]の言ふところによるとひろ子の店は、ひろ子の親の店には違ひないが、父母は早く歿《ぼっ》し、みなし児《ご》のひろ子のために、伯母《おば》夫婦が入つて来て、家の面倒をみてゐるのだつた。伯父は勤人《つとめにん》で、昼は外に出て、夕方帰つた。生活力の弱さうな好人物で、夜は近所の将棊所《しょうぎしょ》へ将棊をさしに行くのを唯一の楽しみにしてゐる。伯母は多少気丈な女で家の中を切り廻すが、病身で、とき/″\寝ついた。二人とも中年近いので、もう二三年もして子供が出来ないなら、何とか法律上の手続をとつて、ひろ子を養女にするか、自分たちが養父母に直るかしたい気組みである。それに茶店の収入も二人の生活に取つては重要なものになつてゐた。
「可哀《かわい》さうに。あれで店にゐると、がらり変つた娘になつて、からいぢけ切つてるのでご
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