ざいますよ。やつぱり本親のない子ですね」とまき[#「まき」に傍点]は言つた。
私は、やつぱり孤独は孤独を牽《ひ》くのか。そして一度、老婢とその少女とが店で対談する様子が見度《みた》くなつた。
その目的の為めでもなかつたが、私は偶然少女の茶店の隣の表具店に写経の巻軸《かんじく》の表装を誂《あつら》へに行つて店先に腰かけてゐた。私が家を出るより先に花屋へ使ひに出したまき[#「まき」に傍点]が町向うから廻つて来て、少女の店に入つた。大きな「大経師」と書いた看板が距《へだ》てになつてゐるので、まき[#「まき」に傍点]には私のゐるのが見えなかつた。表具店の主人は表装の裂地《きれじ》の見本を奥へ探しに行つて手間取つてゐた。都合よく、隣の茶店での話声が私によく聞えて来る。
「何故《なぜ》、今日はあたしにお茶を汲《く》んで出さないんだよ」
まき[#「まき」に傍点]の声は相変らず突つかゝるやうである。
「うちの店ぢや、二十|銭《せん》以上のお買物のお客でなくちや、お茶を出さないのよ」
ひろ子の声も相変らず、ませてゐる。
「いつもあんなに沢山《たくさん》の買物をしてやるぢやないか。常顧客《おとくい
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