中年男女の性的のエネルギーを連想さした。
 まだ実の入らない果実、塩|煎餅《せんべい》、浅草|海苔《のり》、牛乳の含まぬキヤンデイ、――食品目は偏《かたよ》つて行つた。かの女は、人の眼に立たぬところで、河原柳の新枝の皮を剥《む》いて、『自然』の素《す》の肌のやうな白い木地を噛《か》んだ。しみ出すほの青い汁の匂ひは、かの女にそのときだけ人心地を恢復《かいふく》さした。滋養を摂《と》らないためか、視力の弱つたかの女の眼に、川は愈々《いよいよ》、漂渺《ひょうびょう》と流れた。
 裳《も》! 陽炎《かげろう》を幾千百すぢ、寄せ集めて縫ひ流した蘆手絵《あしでえ》風の皺《しわ》は、宙に消えては、また現れ、現れては、また消える。刹那《せつな》にはためく。
 だが裳だけ見えて、河神の姿は見えないのだ。かの女はもどかしく思つて探す。かの女はいつか眼底を疲らして喪心する。美しい情緒だけが心臓を鼓動さしてゐる。
「うちの総領娘が、かう弱くては困るな。」
「体格はいゝのですから、食べものさへ食べて呉《く》れたら、何でもないのですがね。」
「直助に旨《うま》い川魚でも探させろ。」
 両親からの命令を聴いて、椽側
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