十八歳で女学校を出ると、その秋、都会のその明るい顔をした青年画家の妻に貰《もら》はれて行つた。
半年ほどの交渉のうちに、若い画家は、かの女の持つ稀有《けう》の哀愁を一生|錨綱《いかりづな》にして身に巻きつけ、「真面目《まじめ》なるもの」に落付き度《た》いといひ出した。彼のやうな三代相続の都会人の忰《せがれ》は趣味に浮いて、ともすれば軽薄な香水に気化してしまふ惧《おそ》れがあつた。かの女も同じ屋の棟《むね》に住むなら、鮮かな活《い》ける陶器人形がかの女の憂鬱《ゆううつ》には調和すると思つた。
兄は云つた。
「これが愛といへるだらうか。」
父は黙つてゐた。
母は賢かつた。
「この子は、どうせ誰かに思ひ切つて宥《なだ》めたり、賺《す》かされたりしなければ、いのち[#「いのち」に傍点]の芽を吹かない子なのです。けれどもまた、あんまり手荒く、宥めたり賺かしたりする相手では、却《かえ》つて芽を拗らせてしまふといふこともありませう。私はあの人ならちやうどいゝ相手だと思ふんですが。」
腕組してゐた父は眼を開いていつた。
「よし、よし、直助を呼びなさい。川に仮橋をかけることにしよう。嫁入りの俥
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