の若いときのそれと同じものであることに思い当り、うたた悵然《ちょうぜん》とするだけであった。そしてどうしてわたくしには、こう孤独な寂しい人間ばかりが牽《ひ》かれて来るのかと、おのれの変な魅力が呪《のろ》わしくさえなった。
「いいですいいです。これからは、何でもあたしが教えたり便りになってあげますから、このうち[#「うち」に傍点]もあんたの花嫁学校のようなつもりで暇ができたら、いつでもいらっしゃいよ」
すると雛妓は言った。
「あたくしね、正直のところは、死んでもいいから奥さまとご一緒に暮したいと思いますのよ」
わたくしは、今はこの雛妓がまことの娘のように思われて来た。わたくしはそれに対して、わたくしの実家の系譜によるわたくしの名前の由来を語り、それによればお互の名前には女丈夫の筋があることを話して力を籠《こ》めて言った。
「心を強くしてね。きっとわたくしたちは望み通りになれますよ」
日が陰って、そよ風が立って来た。隣の画室で逸作が昼寝から覚めた声が聞える。
「おい、一郎、起きろ。夕方になったぞ」
父の副室を居間にして、そこで昼寝していた一郎も起き上ったらしい。
二人は襖《ふすま
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