の目標物に於て象徴せずとも世は過ごして行けそうに思われる。雛妓のそれは愛くるしく親しみ深いものに見えた。
眼よ。西欧の詩人はこれを形容して星という。東亜の詩人は青蓮に譬《たと》える。一々の諱《いみな》は汝の附くるに任せる。希《ねがわ》くばその実を逸脱せざらんことを。わたくしの観《み》る如くば、それは真夏の際の湖水である。二つが一々主峯の影を濃くひたして空もろ共に凝っている。けれども秋のように冷かではない。見よ、眄視《べんし》、流目の間に艶《あで》やかな煙霞《えんか》の気が長い睫毛《まつげ》を連ねて人に匂《にお》いかかることを。
眉《まゆ》へ来て、わたくしは、はたと息詰まる気がする。それは左右から迫り過ぎていて、その上、型を当てて描いたもののように濃く整い過ぎている。何となく薄命を想《おも》わせる眉であった。額も美しいが狭《せば》まっていた。
きょうは、髪の前をちょっとカールして、水髪のように捌《さば》いた洋髪に結っていた。
心なしか、わたくしが、父の通夜明けの春の宵に不忍《しのばず》の蓮中庵ではじめて会った雛妓かの子とは、殆《ほとん》ど見違えるほど身体にしなやか[#「しなやか」
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