第3水準1−93−80、768−中−24]々《とうとう》の音を忍ばせ、そこに大小三つほどの水玉模様が撥《は》ねて、物憎さを感ぜしむるほど気の利いた図案である。
こうは見て来るものの、しかし、この衣裳《いしょう》に覆われた雛妓の中身も決して衣裳に負けているものではなかった。わたくしは襟元から顔を見上げて行く。
永遠に人目に触れずしてかつ降り、かつ消えてはまた降り積む、あの北地の奥のしら雪のように、その白さには、その果敢《はか》なさの為めに却《かえ》って弛《ゆる》めようもない究極の勁《つよ》い張りがあった。つまんだ程の顎尖《あごさき》から、丸い顔の半へかけて、人をたばかって、人は寧《むし》ろそのたばかられることを歓《よろこ》ぶような、上質の蠱惑《こわく》の影が控目にさし覗《のぞ》いている。澄していても何となく微笑の俤《おもかげ》があるのは、豊かだがういういしい朱の唇が、やや上弦の月に傾いているせいでもあろうか。それは微笑であるが、しかし、微笑以前の微笑である。
鼻稜《びりょう》はやや顔面全体に対して負けていた。けれどもかかる小娘が今更に、女だてら、あの胸悪い権力や精力をこの人間の中心
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