一緒に外遊を望む。言うことが移り気で、その場限りの出来心に過ぎなく思えた。やっぱりお雛妓はお雛妓だけのものだ。もはや取るに足らない気がして、わたくしはただ笑っていた。しかし、こうして、一先ず関心を打切って、離れた目で眺める雛妓は、眼もあやに美しいものであった。
 備後表の青畳の上である。水色ちりめんのごりごりした地へもって来て、中身の肉体を圧倒するほど沢瀉《おもだか》とかんぜ[#「かんぜ」に傍点]水が墨と代赭《たいしゃ》の二色で屈強に描かれている。そしてよく見ると、それ等の模様は描くというよりは、大小無数の疋田《ひった》の鹿の子絞りで埋めてあるだけに、疋田の粒と粒とは、配し合い消し合い、衝《う》ち合って、量感のヴァイヴレーションを起している。この夏の水草と、渦巻く流れとを自然以上に生々としたものに盛り上らせている。
 あだかも、その空に飛ぶように見せて、銀地に墨くろぐろと四五ひきの蜻蛉《とんぼ》が帯の模様によって所を得させられている。
 滝の姿は見えねど、滝壺《たきつぼ》の裾《すそ》の流れの一筋として白絹の帯上げの結び目は、水沫《みなわ》の如く奔騰して、そのみなかみの※[#「革+堂」、
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