くしの手の甲に出来ている子供らしいおちょぼ[#「おちょぼ」に傍点]の窪《くぼ》みを押したり、何か言うことのませ方[#「ませ方」に傍点]と、することの無邪気さとの間にちぐはぐ[#「ちぐはぐ」に傍点]なところを見せていたが、ふと気がついたように逸作の方へ向いた。
「おにいさん――」
しかしその言葉はわたくしに対して懸念がありと見て取るとかの女は「ほい」といって直《す》ぐ、先生と言い改めた。
「先生。何か踊らなくてもいいの。踊るんなら、誰か、うちで遊んでる姐さんを聘《よ》んで欲しいわ」
そう言ってつかつかと逸作の方へ立って行った。煙草《たばこ》を喫《す》いながらわたくしと雛妓との対談を食卓越しに微笑して傍観していた逸作は、こう言われて、
「このお嬢さんは、売れ残りのうちの姐さんのためにだいぶ斡旋《あっせん》するね」
と言葉で逃げたが、雛妓はなかなか許さなかった。逸作のそばに坐ったかの女は、身体を「く」の字や「つ」の字に曲げ、「ねえ、先生、よってば」「いいでしょう、先生」と腕に取り縋《すが》ったり髪の毛の中に指を突き入れたりした。だがその所作よりも、大きな帯や大きな袖に覆われてはいるもの
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