払った顔付になり、わたくしを長谷の観音のように恭々《うやうや》しげに高く見上げた。
「想像よりは少し肥《ふと》っていらっしゃるのね」
 わたくしは笑いながら、
「そうお、そんなにすらりとした女に思ってたの」と言うときわたくしの親しみの手はひとりでに雛妓の肩にかかっていた。
「お座敷辛いんでしょう。お客さまは骨が折れるんでしょう。夜遅くなって眠かなくって」
 それはまるでわたくしの胸のうちに用意されでもしていた聯句のように、すらすらと述べ出された。すると雛妓は再び幼い商売女の顔になって、
「あら、ちっともそんなことなくてよ。面白いわ。――」
 とまで言ったが、それではあまり同情者に対してまとも[#「まとも」に傍点]に弾《は》ね返し過ぎるとでも思ったのか、
「なんだか知らないけど、あたし、まだ子供でしょう。だから大概のことはみなさんから大目に見て頂けるらしい気がしますのよ。それに、姐《ねえ》さんたちも、もしまじめに考えたら、この商売は出来ないっていうし――」
 雛妓は両手でわたくしのあいた方の手を取り、自分の掌を合せて見て、僅《わず》かしかない大きさの差を珍らしがったり、何歳になってもわた
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