子供達もなるべくなら都で仕込んでやり度《た》く思ふのです。もう都へ行つてから本当にその気分になり切つたら或ひは田舎の生活を切り上げて都の人達になるかも知れません。しかし、そのまへにおとうさんとおかあさんには成すべき或る事がありますのです。それは昔の大方の知己《ちき》を見て廻ることです。もちろん一番先きにS家、またおかあさんを婿にしようとしたお爺《じい》さん(お爺さんは多分死んで届るでせうから娘)の家へも立寄つて見るつもりです。そして、実は斯《か》く/\と遠い二十幾年も前の真実を打ち明けて、たとへ一時はけしきを損じようともそれを過ぎれば恐らくお互ひのわだかまりがとけて朗《ほがらか》にならう。そして或ひは寛《くつろ》いだ都暮らしの気分も其処《そこ》から自然に湧《わ》いて来ようとのおとうさんとおかあさんの意図なのですが、その結果がどうならうかは作者も今ここに明言出来ません。人は、或る年齢に達すると、どうも故郷を顧みずには居られないのが通例のやうです。
 それから云ひ遅れましたがおとうさんとおかあさんの母親達は二人の出発後大いに悟るところでもあつたやうに双方とも今までよりより以上頼み合ひ終《つ
前へ 次へ
全24ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング