さ》へた皮のいろも艶《つや》やかに、大きな鉢に入れられて濃いこうばしいお茶と一緒に運ばれました。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
――おとうさん。今夜こそ、わたし達は私達の真実のことを、この子供達にお話しいたしませうね。
――ああ、それが好い。
[#ここで字下げ終わり]
 これがおとうさんの返事です。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
――さうよ、おかあさん。もう四五年前からのお約束ですもの。
――僕たちが二十位になつたら話してあげるつて仰《おっしゃ》つたことがありましたつけ。
[#ここで字下げ終わり]
 歳も二十と十九の一つ違ひのむすこと、むすめが言ひました。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
――まあ無花果をたくさん喰べてな、お茶もこうば[#「こうば」に傍点]しいぞ、月が半分も、あの山の端に傾いた頃から話し出さうよ。
[#ここで字下げ終わり]
 おとうさんが、きつぱりと云ひますと、先に云ひ出したおかあさんがいそいそとしたなかにもすこし恥《はずか》し相な赫《あか》らめた顔色を見せました。わが母|乍《なが》ら美くしい愛らしいと、むすめはそれを眺めま
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