さん。
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おかあさんは少し困つたやうに娘の問ひに答へました。
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――お美しかつたとも、ねえおとうさん。お美しいお嬢様でしたともねえ。
――ああ、美しいお嬢様でした。
[#ここで字下げ終わり]
おとうさんの頬《ほお》は何故《なぜ》か少し赫《あか》らみました。
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――まあ、それはともかく、おとうさんはたうとうお嬢様に好かれ切つておしまひになり、S家へ来て欲しいとお嬢様から懇望されなさつた。始めはお嬢様のお相手などして折角の建築学の研究を止《や》めなければならないのは厭《いや》だとお思ひになつた相《そう》だけれど、よくお考へなさるとそのS家といふのは都でも名だたる富豪で、本邸は云ふに及ばず広い屋敷内に実に珍らしい建築の亭《ちん》や別荘をお持ちになつていらつしやることに気付き、とてもただではさういふ建築の内部など拝見出来ない、当分お嬢様のお相手がてらさういふ処の見学をなさるおつもりで承知なさつた。ただし、親一人子一人の淋《さび》しい母親を置いて行くのだからお風呂の日だけは実家へ戻
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