から辛抱は強かつた。踏みつければ踏みつけられたまま伸びて行くといふたちの女だつた。それを幸《さいわ》ひ、こちらもまだ遊び盛りの歳だものだから、家を外に、俳諧《はいかい》、戯作《げさく》者仲間のつきあひにうつつを抜した。たまにうちへかへつてみると、お玉の野暮《やぼ》さ加減が気に触つた。自分と同じ病気なのも癪《しゃく》に触つた。遊びは三十を過ぎても慢性になつて続いて行くうちに、三十七の歳に養父は歿《な》くなる。紙屋の店を継いではじめて商売を手がけてみた。慣れぬこととてうまくゆく道理はない。その弱り目に翌年|逢《あ》つた店の火事、次の一年間は何とか店を立て直さうとさまざまに肝胆を砕いてみたが駄目《だめ》だつた。そしておよそ商家に育つて自分くらゐ商売に不向きな性質の人間はないと悟つた。何故《なぜ》といふに、みすみす原価より高く利徳といふものを加へて品物を、知らん顔して人に売るといふことが、どうも気がひけてならなかつたからである。商品に手数料の利徳といふものをつけるのは当りまへであるには違ひなからうけれど、性分だ、その利徳はただ儲《もう》けの為に人に押し付けるやうで、客に価値を訊《き》かれても、
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