上田秋成の晩年
岡本かの子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)翁《おきな》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)米|醤油《しょうゆ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「王+連」、第3水準1−88−24]

 [#…]:返り点
 (例)明日身不[#レ]苦
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 文化三年の春、全く孤独になつた七十三の翁《おきな》、上田秋成は京都南禅寺内の元の庵居《あんきょ》の跡に間に合せの小庵を作つて、老残の身を投げ込んだ。
 孤独と云つても、このくらゐ徹底した孤独はなかつた。七年前三十八年連れ添つた妻の瑚※[#「王+連」、第3水準1−88−24]尼《これんに》と死に別れてから身内のものは一人も無かつた。友だちや門弟もすこしはあつたが、表では体裁のいいつきあひはするものの、心は許せなかつた。それさへ近来は一人も来なくなつた。いくらからかひ半分にこの皮肉で頑固なおやぢを味《あじわ》ひに来る連中でも、ほとんど盲目に近くなつたおいぼれをいぢるのは骨も
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