た。やつぱり自分のしんにうづいてゐるまた何物かを追ひ求める執念が自分の命を死なさないのか。この妄執の念の去らぬうちは、自分はいやでもこの世に生かせられるのではあるまいか、それは、辛《つら》く怖ろしいことのやうに思はれる。また、楽しい心丈夫な気持もする。人間にある迷ひといふものは、寿命に対してなかなか味のある働きをしてゐるやうにも考へられる。
 疑念ふかい彼はまた、若い頃からどの女を見ても醜い種が果肉の奥に隠されてゐて、自分の興を醒《さま》した。男を誘惑して子を生んでやらう。産んだ子を人質に、男を永く自分の便りにさしてやらう、生んだその子に向つては威張《いば》つて自分を扶助《ふじょ》さしてやらう――かういふいはれの種を持たない女は一人も無からう。もつとも女自身が必ずしもさういふ魂胆を一人残らず知つてゐて男に働きかけるわけではない。たいがいの女は何にも知らずに無心に立居振舞ふのである。だがその無心の振舞ひのなかに、もう、これだけの種が仕込まれてゐるのだ。女が罪が深いとほとけ[#「ほとけ」に傍点]も云はれたが、およそ、こんなところをさしたのではないか。自分が遇《あ》つた女にはみなこの罠《わな
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