て)『は、は、は、は、何の隠し立てをしてよいものか。世の譬《たと》えにも何ぞといえば夫婦は二世と言うではないか。離れぬ、往なぬとあまりそなたが云い張るゆえ今別れても末は一つの極楽浄土とわしが言ったは、ありゃほんの口のはずみじゃ』
おくみ『いえいえ弾みではございません。それに先程から折々何ぞ思い詰めて居るらしいこなたのかくし溜息。さあ、言って下され。心が急《せ》く。それともこなたが言えずば、いっそのこと、こなたの家へ馳せて行き、ととさん、かかさんに理由《わけ》を話し、のっぴきさせず押しかけ女房。瞬きする間もおまえのお傍は離れません。もともと二人は許嫁《いいなずけ》、誰に遠慮も要らぬ。わたしゃもう、御主家へは帰りますまい』
源兵衛『こりゃまた乱暴な。時節が来ぬのに押しかけ女房とは――。わしに言い損じもあらばあやまりもしよう。頼む。御主家へ戻って呉れ』
おくみ『わたしゃ、どうあっても嫌じゃわいなあ』
源兵衛『すりゃこれほどに頼んでも』
おくみ『死んでもお傍を離れませぬ』
源兵衛『帰れ』
おくみ『いやじゃ、いやじゃ』
[#ここから2字下げ]
(二人、また揉み合うところに、源右衛門の家の垣の中に
前へ
次へ
全35ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング