く掘られた空堀、築きがけの土塀、それを越して檜皮葺《ひわだぶ》きの御影堂の棟が見える。新築の生々しい木肌は周りの景色から浮き出ている感じ。柱五十余木を費し、乱国にしては相当な構えの建築物の棟である。花道から舞台を通って御影堂の塀横に行きつく道は造営の材料を運ぶ為めに新しく造ったもので、里道よりはやや広く、路面に人々の踏み乱らした足跡、車の轍《わだち》の跡が狼藉《ろうぜき》としている。使い残りの小材木や根太石《ねだいし》も其《そ》の辺に積み重ねられている。遠景、渋谷越の山峰は日暮れの逆光線に黝《くろず》んでいる。)
開幕。土地の信徒で工事手伝いの男女の一群上手よりどやどやと出て来て舞台の下手へ入る。中の三四人、序に運んで来た材木切れをそこに置き、身体の埃を打ち叩き、着物をかい繕《つく》ろいなどしつつ作業を仕舞ったしこなし。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
信徒一『や、これでまあ御影堂の仕事もすっかり終った。明日からは土塀の方の手が足らんちゅうから、あちらの手伝いに廻ったろかい』
信徒二『そやそや。何でも手の足らん箇所を見付け次第、そこへかぶりつい
前へ
次へ
全35ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング