のである。
 滅ぼしてしまうのは惜しい。此の戯曲には可《か》なりそれを活用してみた。

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文明十一年十一月(室町時代末期)

近江《おうみ》国琵琶湖東南岸

蓮如《れんにょ》上人  浄土真宗の開祖親鸞聖人より八代目の法主にして、宗門中興の偉僧。世に言う「御文章」の筆者。六十九歳。
竹原の幸子坊  上人常随の侍僧。
堅田の源右衛門  堅田ノ浦の漁師頭。六十二歳。多少武士の血をひいて居る。
同源兵衛  源右衛門の息子。二十三歳。
おさき  源右衛門妻。五十四歳。
おくみ  孤児の女中、もと良家の娘、源兵衛の許嫁。十八歳。
円命阿闍梨  三井寺の長老。
三井寺の法師稚児大勢。
その他、村の門徒男女大勢。
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     第一場

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(山科《やましな》街道追分近くの裏道。冬も近くで畑には何も無い。ところどころ大根の葉の青みが色彩を点じている。畦《あぜ》の雑木も葉が落ち尽し梢は竹藪と共に風に鳴っている。下手《しもて》の背景は松並木と稲村の点綴《てんてい》でふち取られた山科街道。上手《かみて》には新らし
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