て是が非でも此《こ》の月末の親鸞さま御正忌会のお※[#「二点しんにょう+台」、第3水準1−92−53]夜《たいや》までには美んごと拵《こしら》え上げにゃ、わてらの男が立たん』
信徒三『わてらの男なぞどうでもええ。御門徒衆、一統の男さえ立てばええわい』
信徒二『そりゃまあそうや。御門徒衆一統の男さえ立てばええ。わしもその中の一人やからな。だが、なんしい十年まえ大谷の御廟所を比叡山の大衆に焼き払われてから、大将株のお上人さまは加賀、越前と辺海の御苦労。悪う言えば田舎廻りや。それがようよう時節がめぐって来て、都近くの此の山科にお堂の再建。こりゃ門徒一同のずんと男が立つわけじゃ』
信徒四『お堂が斯《こ》う立派に出来てみると、早く中身の親鸞さまの御影像もお迎え申し、据わるところに据わって頂かんことにゃ、何となく落付きが悪い。仏造って魂入れずと言うこともあるからなあ』
信徒一『そりゃわいどもより、御先祖孝行のお上人さまの方がどのくらいそれを望んで居らりょうか知れん。それで十年前に北国へお立退きの際、お預けなされた三井寺の方へ此の間じゅうからさいさい掛合われなされたけれど、一向取戻しは埒《らち》明か
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