、言うて見やれ』
源右衛門(あたりを見廻し、少し乗出し、小声になって)『お上人さま、そのお頼みとは、三井寺へ引換えの料の生首二つ、この私奴に調《ととの》えて欲しいと仰しゃるのでございましょう』
蓮如(驚いて手をさし延べ)『源右衛門。必ず早合点をしてはならぬぞ。わしは生首を調達しようとするような若《も》しそういう不心得ものも此のあたりにあらば、そちに留めて呉れいと、留め役を言い付けに来たのだ。滅相もない』
源右衛門(妙な顔して)『なに。留め役でござりますると』
おさき『開山聖人さま御正忌《ごしょうき》会のお※[#「二点しんにょう+台」、第3水準1−92−53]夜《たいや》も近々。御影堂は立派にお出来申したのに、お中身の開山聖人さまのあの御影像が無くて御報恩講が勤まりましょうか。お上人さま始め御門徒衆御一同、数ならぬ私どもまで他宗に対してどうして顔が立ちましょうか』
蓮如『名誉、不名誉は言ってはいられぬ。人の命が大事じゃ。憐れみ深い開山聖人さまが、それ程までして取戻せとも仰《おお》せあるまい。御影像取戻しに就いてはまた折れ合う時節もあろう。此の際、三井寺方の申条に対し瞋恚《しんい》を抱き、
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