喧嘩、強訴、仕返し、その他何によらず殺伐なる振舞いを企つるものあらば、屹度《きっと》そなたから留めて貰い度いのじゃ。頼んだぞ源右衛門』
源右衛門『じゃと申してあまりな無法の言いがかり』
蓮如『年甲斐もない。そちから先に何事じゃ。この頼み聴かずばきっと破門じゃぞ』
源右衛門『ええ?……………是非もない。仰せ畏《かしこま》りましてござります』
蓮如『おさき、そなたも心添えして下され』
おさき『は、は。はい』
蓮如『いや、思わずきつい言葉を放って、さぞ聞き辛くもあったであろう。許して呉りゃれ。何事も思うに足らぬは此の世の常。お互いにお名号に慰められつつ兎《と》も角《かく》も、生きて行く手段が肝要じゃ』
源右衛門、おさき(涙を流しながら)『有難うございます。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏』
蓮如『とこう言ううち、夜半も過ぎた。どれもう一軒訪ぬるところがある。暇《いとま》としよう』
源右衛門『もうお帰りでござりまするか』
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(おさき、竹原の幸子坊の手に松明の無いのを見て)
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おさき『幸子坊さん、
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