みをして居ったところでござりました。三井寺方の申条によれば、門徒宗の方に於《おい》て開山聖人さまの御影像を取戻し度《た》くば、生首二つ持参いたせ。それと引換えに渡してやろうと、かような返事との噂を聞きました。お上人さま、そりゃ本当でござりますか』
蓮如『すでに存じておる以上隠し立てもなるまい。三井寺方の返事は全くその通りじゃ』
源右衛門『まさかと思って聴き居りましたに、では本当でござりまするか。如何に乱れた世の中とは言いながら、引換えの料《りょう》に人の生首。こりゃ無理難題を言いかけて御影像を返さぬつもりとしか受取れませぬ』
おさき『出家ともあるものが、人の生首を所望とは、悪魔の所為としか思われませぬ』
蓮如『これには何か仔細のあることであろう。それに就いて源右衛門、そちに頼みがあるが是非聴いては呉れまいか』
源右衛門『数ならぬ御同行の端くれの私|奴《め》へ、お上人さま直々のお頼み、なんで否応を申しましょう。…………然しお情深いお上人さまのそのお口からこの御註文は、ちと仰《おっ》しゃり憎くはござりませぬか。代りにこの私奴から申上げて見ましょうか』
蓮如『ほほう。何と推察せられたか、まあ
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