の丘の桜
かそかなる遠雷《とほいかづち》を感じつつひつそりと桜さき続きたり
なごやかに空くもりつつ咲き盛《さか》る桜を一日《ひとひ》うち和《なご》めたり
気難《きむづ》かしきこの家《や》の主人《あるじ》むづかしき顔しつつさくら移植《うつ》させて居《を》り
歌麿《うたまろ》の遊女《いうぢよ》の襟《えり》の小桜《こざくら》がわが傘《からかさ》にとまり来にけり
政信《まさのぶ》の遊女の袖《そで》に散るさくらいかなる風にかつ散りにけん
うたかたの流れの岸に広重《ひろしげ》が現《うつつ》の桜花《はな》を描《か》き重ねたり
咲き倦《う》みて白くふやけし桜花《はな》のいろ欠伸《あくび》かみつつわが見やりたり
みちばたのさくらの太根《ふとね》玉葱《たまねぎ》を懇《ねもごろ》いだきわがいこひたり
ほろほろと桜ちれども玉葱はむつつりとしてもの言はずけり
何がなしかなしくなれりもの言はぬ玉葱に散り散り滑《すべ》るさくら
ここに散る桜は白し玉葱の薄茶《うすちや》の皮ゆ青芽《あをめ》のぞけり
春浅しここの丘辺《をかべ》の裸木《はだかぎ》の桜|並木《なみき》を歩《あゆ》みつつかなし
さく
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