ひとこゑ》の汽笛《きてき》の音がつつ走りけり
駅前の石炭の層にうらうらと桜花《はな》ちりかかる真昼なりけり
自動車の太輪《ふとわ》の砂塵《さぢん》もうもうとたちけむりつつ道の辺《べ》の桜
真白なる鶏《くだかけ》ひとつ今朝《けさ》みれば血に染《そ》みてあり桜花《はな》の樹《こ》のもと
空高く桜咲けどもわがたどる一本の道は岩根《いはね》こごしき
さくらばな咲く春なれや偽《いつは》りもまことも来よやともに眺《なが》めな
日《ひ》の本《もと》の春のあめつち豪華《がうくわ》なる桜花《さくら》の層をうちに築きたり
おのづから蔭影《かげ》こそやどれ咲き満《み》てる桜花《さくら》の層のこのもかのもに
にほやかにさくら描《か》かむと春陽《はるひ》のもとぬばたまの墨《すみ》をすり流したり
にほやかにさくら描《ゑが》きておみな子《ご》も金《かね》もうけむとおもひ立ちたり
おみな子の金もうくるを笑はざれ日本のさくら震後の桜
日本の震後のさくらいかならむ色にさくやと待ちに待ちたり
金ほしきおみなとなりて眺《なが》むれど桜の色は変《かわ》らざりけり
金ほしき今年の春のおのれかもいやうるは
前へ
次へ
全12ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング