ひとこゑ》の汽笛《きてき》の音がつつ走りけり

駅前の石炭の層にうらうらと桜花《はな》ちりかかる真昼なりけり

自動車の太輪《ふとわ》の砂塵《さぢん》もうもうとたちけむりつつ道の辺《べ》の桜

真白なる鶏《くだかけ》ひとつ今朝《けさ》みれば血に染《そ》みてあり桜花《はな》の樹《こ》のもと

空高く桜咲けどもわがたどる一本の道は岩根《いはね》こごしき

さくらばな咲く春なれや偽《いつは》りもまことも来よやともに眺《なが》めな

日《ひ》の本《もと》の春のあめつち豪華《がうくわ》なる桜花《さくら》の層をうちに築きたり

おのづから蔭影《かげ》こそやどれ咲き満《み》てる桜花《さくら》の層のこのもかのもに

にほやかにさくら描《か》かむと春陽《はるひ》のもとぬばたまの墨《すみ》をすり流したり

にほやかにさくら描《ゑが》きておみな子《ご》も金《かね》もうけむとおもひ立ちたり

おみな子の金もうくるを笑はざれ日本のさくら震後の桜

日本の震後のさくらいかならむ色にさくやと待ちに待ちたり

金ほしきおみなとなりて眺《なが》むれど桜の色は変《かわ》らざりけり

金ほしき今年の春のおのれかもいやうるは
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