《よ》の桜ばな
桜花《さくらばな》軒場《のきば》に近し頬《ほ》にあつるかみそりの冷えのうすらさびしき
山川のどよみの音のすさまじきどよみの傍《そば》の一本《ひともと》桜
桜花《はな》さけど廚《くりや》女房いつしんに働きてあり釜《かま》ひかる廚
裏庭のひよろひよろ桜てふずば[#「てふずば」に傍点]の手ふき手ぬぐひ薄汚《うすよご》れたり
しんしんと家をめぐりて桜さくおぞけだちたり夜半《よは》にめざめて
けふ咲ける桜はわれに要《えう》あらじひとの嘘《うそ》をばひたに数《かぞ》ふる
さかんなる桜はわれになまぬるき「許しの心」あに教ふべしや
薄月夜《うすづくよ》こよひひそかに海鳥《うみどり》がこの丘《をか》の花をついばみに来《こ》む
この丘に桜散る夜《よ》なり黒玉《ぬばたま》の海に白帆《しらほ》はなに夢むらむ
夜《よ》は夜とて闇の小床《をどこ》に淡星《あはぼし》と語らふものか小《こ》ざくら桜
こよひわきて桜花《はな》の上なる暗空《やみぞら》に光するどき星ひとつあり
ひとり見る山ざくらばな胃を病《や》みてほろほろ苦き舌を含《ふふ》めり
ねむたげな桜|並木《なみき》を一声《
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