とどかずて桜はただに闇《やみ》に真白し
いつぽんの桜すずしく野に樹《た》てりほかにいつぽんの樹もあらぬ野に
桜ばな暗夜《やみよ》に白くぼけてあり墨《すみ》一色《いつしき》の藪《やぶ》のほとりに
つぶらかにわが眼《め》を張《は》ればつぶつぶに光こまかき朝桜かも
ひんがしの家《や》の白かべに八重《やへ》ざくら淋漓《りんり》と花のかげうつしたり
さくら咲く丘のあなたの空の果て朝やけ雲の朱《しゆ》を湛《たた》へたり
わだつみの豊旗雲《とよはたぐも》のあかねいろ大和《やまと》島根《しまね》の春花《はるはな》に映《は》ゆ
ひさかたの光のどけし桜ちるここの丘辺《をかべ》を過ぐる葬列《さうれつ》
ほそほそと雫《しづく》しだるる糸ざくら西洋婦人|濡《ぬ》れてくぐるも
糸桜ほそき腕《かひな》がひしひしとわが真額《まひたへ》をむちうちにけり
わが家《いへ》の遠《とほ》つ代《よ》にひとり美しき娘ありしといふ雨夜《あまよ》夜ざくら
真玉《まだま》なす桜花《はな》のしづくに白黒のだんだら犬がぬれて停《た》ちたり
折々《をりをり》にしづくしたたる桜花《はな》のかげ女靴《めぐつ》のあとのとびと
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