くら》見てありとわれに驚く

わが婢《はした》なにおもふらむ廚辺《くりやべ》の桜花《はな》の樹《こ》のもとにあちらむき停《た》てり

この朝の桜花《はな》の樹《こ》のもと小心の与作《よさく》ものつ[#「のつ」に傍点]と歩み出でたり

わが幼稚《をさな》さひたはづかしし立ち優《まさ》り咲き揃《そろ》ひたる春花《はるはな》なれや

咲きこもる桜花《はな》ふところゆ一《ひと》ひらの白刃《しろは》こぼれて夢さめにけり

わがころも夜具《やぐ》に仕換《しか》へてつつましく掻《か》い寝《いね》てけり月夜《つくよ》夜ざくら

角《つの》立ちのみじかきからに牛の角《つの》つのだち行けどふれずさくらに

いみじくも枝垂《しだ》るるさくら日《ひ》の本《もと》の良子《ながこ》女王《によわう》が素直《なほ》きおん眉《まゆ》

可愛《かあ》ゆしといふわが言の畏《かし》こけれ桜花《さくら》見ますかわが良子ひめ

新しき家居《いへゐ》の門《かど》に桜花《はな》咲けど夜《よ》を暗み提灯《ちやうちん》つけて出《い》でけり

桜花《はな》さける道は暗けど一《いつ》しんに提灯ふりて歩みけるかも

わが持てる提灯の炎《ひ》は
前へ 次へ
全12ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング