が頻々《ひんぴん》と出て来ますね。あれは僕自身も僕を素焼の壺程度に解釈していた時分云ったことですよ。僕は実は大変な鬱血漢でしたよ」
「割合いに刺戟的な方だと思うわ」
「ばあやのお喋りがはいらないんで、今日はあなたがよくお話しになる、僕の本望だな。あれはね、僕、今でもそう思ってますが――つまり、すぐ恋愛になるような、あり来りの男女の交際は嫌だと思ってましたから、それがああいう言葉で出たんですが……」
この青年は非常にエゴイズムなのではないかと、ふとかの女は思った。
でなければ、それ以上に抜け切った非常に怜悧な男なのではないかとも思った。
でもこう話しているうちに、決して男性の体臭的でない明るいすがすがしい気配が、青年の顔色や態度に現われて来た。かの女は、もしその気配に自分の熱情が揺がされでもしたら、自分が何か非常に卑しい軽率な存在にでも見えだすかも知れない――そう思うとかの女はかすかなうそ[#「うそ」に傍点]寒いような慄えに全身をひきしめられた。
「ね、あそこをご覧なさい」
青年の指差したのは、真向いの堤に恰《あたか》も黄金の滝のように咲き枝垂《しだ》れている八重山吹の花むらであ
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