「でもあなたは素焼の壺と素焼の壺が並んだような、あっさりした男女の交際が欲しいと仰ったでしょう」
「ああ、そうでしたね。あの時分僕は実はあの反対な――積極的な生命的な女性との接触を求めていながら、つい一方の蝕まれた性格が、ああいうことを云わしたんですね。僕はあんなことを云いながら、ぐんぐんあなたの積極的な処に牽かれて……こんな言葉を許して下さい……」
「でも私は積極的でしょうか」
「熱情があんまり清潔すぎて醗酵しないから、病的な内気の方へ折れ込んで仕舞うのでしょう。あなたの兄さんもそういう方だ」
「では兄におつき合いになっただけであなたはよかったではありませんか」
「兄さんともそれで仲好しでした。兄さんは僕の変に性《しょう》の抜けたようなニヒリスチックなところが、鬱屈した性質を洗滌されるようで好きだったのだな」
「そう云いました。私にもだからおつき合いしてごらん、気持ちがさっぱりして薬になるよって、あなたを紹介して呉れました」
「あはは……お互に換気作用を計画しておつき合いし始めたんですか……あははは……近代人の科学的批判的意識が友情にまで、そこまで及べば徹底してますね」
「でも兄は
前へ
次へ
全19ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング