たも一緒《いっしょ》に入って腕《うで》に掴《つかま》らしといて下さらない、怖《こわ》いから」
これは難題です。蘆《あし》の葉のそよぎにも息を殺す二人の身の上に取って、このくらい冒険《ぼうけん》はありません。見付かったら最後、二人はどんな運命になるか判らない。昭青年は戦慄《せんりつ》を覚えながら押《お》し止めました。
「馬鹿《ばか》をおっしゃい。昼日中、そんな危険な事が出来ますか。もし今夜、月が曇《くも》りだったら、闇《やみ》を幸い、ここへ来て入れてあげましょう。それまで我慢《がまん》するものです」
けれども姫は自分の云《い》い出したすがすがしい計画から誘惑《ゆうわく》され、身体《からだ》がむずがゆくなって一刻の猶予《ゆうよ》もなく河水に浸《ひた》らねば居られぬ気持ちにせき立てられるのでした。
「あたくしの言う事はどうしても聴いて頂けないの」
姫の切なげな懇願《こんがん》に昭青年は前後のわきまえ[#「わきまえ」に傍点]も無くなって「では」と言って姫を川の中へ連れて入りました。
青春は昔《むかし》も今も変りません。二人は今の青年男女が野天のプールで泳ぐように、満身に陽《ひ》を浴びな
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