がら水沫《しぶき》を跳ね飛ばして他愛もなく遊んでいます。あまりの爽快《そうかい》さに時の経つのも忘れていました。すると、いつの間にか寺の方の岸には僧達が並《なら》んで、呆《あき》れた声で騒《さわ》ぎ出しました。
「昭沙弥じゃないか」
「水中でおなご[#「おなご」に傍点]と戯《たわむ》れとる」
「いやはや言語道断な仕儀《しぎ》だ」

     三

 僧たちはすぐ昭青年を掴《つか》まえて、裸《はだか》のまま方丈《ほうじょう》へ引立てて行きました。しかし、さすがに僧たちも、裸の姫には手を触れかね、躊躇《ちゅうちょ》している暇《ひま》に姫はびっくり[#「びっくり」に傍点]して苫船の中へ逃《に》げ込み、着物を冠《かぶ》って縮んでいました。
 僧たちの訴《うった》えを静かに瞑目《めいもく》して聴いていた住持三要は、いちいちうなずいていましたが最後に、
「判った。だが、昭公が一緒に居たのは、確《しか》とおなご[#「おなご」に傍点]かな。鯉魚《りぎょ》をおなごと見誤ったのではないかな」
「そんな馬鹿な間違《まちが》いが」と、いきり立つ僧を押《おさ》えて三要は言いました。
「おなご[#「おなご」に傍点
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