り]
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
――ええ、よろしゅうございます。夫のためには遊里へ身を沈める慣《なら》いさえございます。
――無理を聞き入れて貰って何より頂上。では早速、明日にも男狐を救い出しに出かけよう。その狐師の家はどこだね。
――目黒不動裏の藪陰《やぶかげ》でございます。門に野犬の皮が干してあるのが、七蔵の家。
――しかと承知した。して、そなたが礼に来て呉れる夜は。
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女艶にはにかむ嬌態をしながら
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
――日もつごもりの晦《みそか》ごと、闇を合図にとんとんと、霰《あられ》まじりに戸を叩いたら、それを合図と思召《おぼしめ》して下さい。
――確《しか》と約束いたしたぞ。
――では、お暇《いとま》させていただきます。したが、あなたさまは何で先程からわたくしの足元ばかりご覧《ろう》じてでございます。
――一たい狐狸の化けたのは、人間の姿はしていても地に敷く影は正体のままと聞いたが、そなたは影までたおやかな女の影、よほど行亙った化け方と感心して見ていたのさ。
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