―実学も突き詰めてみると、幻の無限に入って仕舞う。時と場合と事情に適応した理論が、いつでも本当ということになる。この無限の大自在所に突き抜けてみると、ありがたいが、おれ見たいな人間には少し寂しい気がする。それでまあ、おれのパトロンの青山修理のこの抱地に一軒空いてる小屋があるというので、引込んだのさ。
――引込んだらなお寂しいだろう。
――こうやって眼を開いて、うつらうつら夢をしばらく見てるのだ。
――卑怯《ひきょう》な逃避趣味だね。
――そういう貴公が、こどもらしい餅花など買っているじゃないか。
――こりゃちょっときれいだったので。
――ご同様さまだ。
――どうも手に負えんな。
――何ももてなしがない。これでも食うて見るか。この向うの御用屋敷内の御薬園で出来た甘藷だ。
――これが評判のさつま芋というものか。町方では毒になるといったり、薬になるといったり、諸説まちまちだ。河豚《ふぐ》は食いたし、命は惜しだな。
――貴公までそんなことをいう。やがて三つ児まで、駄菓子のように食い出すよ。
――こりゃあやしいまで甘い。だが怖い気もする。
――怖い気がするからあやしいまでうまいのだ。
――はあ、
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