したけりゃこのわたしとて、今までに随分相手の女もなくはなかった。
――ねたましいことを仰言しゃいます。
――結ぶの恋は破れる恋ともなる。それが判り切った嫌さに、ひとりもので甘藷を噛《かじ》って、炬燵へあたっている仕儀だ。狐の化けた女というなら、その実体のない美しさに賞《め》でて、一晩位は相手になってつき合う積りだが。
――すりゃ、どうあってもわたくしの正体を知ろうとはなさりませず……。
――なまじ正体を現したら最後、八州の役人へ引渡すぞ。
――(女思い入れあって)仕方がございません。一夜なりともお側に置いて頂きたさに、やっぱり私は狐の化けた女で居りましょう。ですから、どうぞ――可愛がって……
――は、は、は、は、そうと決まれば、そうか、そこでは寒かろう。じゃまあこっちへ寄るが好い。

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手をとる。女うれしき嬌姿あり。このとき二見雨合羽にて抜き足、差し足、来て戸の隙より覗く。
[#ここで字下げ終わり]

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――よもやと思ったに、おのれ女め、図々しくも来おったか。

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戸を剥《はが》して入る。女、飛び上
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